箱庭円舞曲は、2021年11月下旬に予定していた公演を、2022年度以降に延期いたしました。
理由は、ベタですがコロナ禍の影響です。まだ正式な情報公開の前でしたが、上演を楽しみにしてくださっていたお客さまには、心からお詫び申し上げます。延期公演の時期、詳細等決まり次第、お知らせいたします。
また、劇場での公演延期に伴い、2021年11月26日(金)~30日(火)に、過去上演作品動画の期間限定無料公開を兼ねたオンライン配信イベントを企画しております。こちらも詳細が決まり次第、またお知らせいたします。
~ご挨拶~
こんにちは古川です。
今回、このような苦渋の決断をするに至りました。
公演を楽しみに待っていてくださったお客さま、関係各位、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。
そしてこのあいさつ文まで読みに来てくださり、恐れ入ります。
ささやかですが、公演を延期するに至った経緯と状況を綴っておこうと思います。
ご興味のある方はお目通しいただけましたら幸いです。
内容としてはまあ、コロナ禍での劇団あるあるです。
さて、遡ること約1年前。2020年末に、東京都にコロナウィルス感染者の大波(初めての1000人超え)が押し寄せる中で、我々は『今はやることじゃない』という作品を上演しました。こんなにひどい状況だから、今はやることじゃないし今流行ることじゃないけど、表現創作活動を止めてはいけない、公演を楽しみにしてくださっているお客様を裏切ることはできない、と、出来得る限りの感染対策を行い、公演を決行しました。結果として面白い作品は創れたと思いますし、「やれて良かった」とは思いましたが、正直「やって良かった」とは思えなかったのです。その理由は様々ですが、中でも比重が大きかったのが、次の3点です。
1.安心してご覧いただけない・・・お客様が劇場にいらしていただくために相当な覚悟を持っていただかなくてはならない。
2.全力で宣伝できない・・・自分たちがお客様をお誘いする際に「感染リスクを押してでもお越しいただきたい!」なんて、無責任なことが言えない。
3.どう頑張っても赤字・・・薄汚い話かもしれませんが現実問題。
これらの重みが、創作の楽しさを軽く凌駕していました。予想はしていましたが、公演を強行してより強固に痛感しました。
やがて年が明け、2021年が始まり、状況が改善することを祈りながら、公演準備を進めていました。11月末の公演ということで、8月頃の情報公開を目指して、毎週オンライン会議で企画を詰めていた最中でした。7月から始まる感染状況の爆発的な悪化。オリンピックはやってるのに。「このままで公演創れるのかな・・・」という不安が頭をもたげ始めました。そのタイミングで、自身が演出で携わる予定だった別な劇団さんの8月公演の中止(延期)が決定しました。小屋入りするはずだった8月中旬、東京都の感染者数は5000人超えを連発しました。「お客様に楽しんでいただこう」という前向きな気持ちが、引き潮のように流されていくのが分かりました。時を同じくして、割と近しい友人がどんどんコロナに罹患していきました。友達の友達レベルだった円が、友達レベルまで狭まってきたのです。そんな中、大々的に「公演やります!」なんて宣言できるような雰囲気でもなくなっていると感じました。仮に宣言したら「え、今はやることじゃなくない?」という無言の圧力に圧し潰されそうで、情報公開するする勇気が萎れていきました。
そして9月。自身も劇団員も皆ワクチンを打ち終え、巷間の感染の波も落ち着いてきたかに思えました。感染者減少の理由が明確にわからない、という不気味さはありつつも、光明を感じていいのかな、と思っていた矢先。僕の家族が、コロナウィルス感染者の濃厚接触者認定を受けました。幸いにして、数日後に受けたPCR検査の結果は陰性だったのですが、自宅待機は2週間続きます。家族が一人濃厚接触者になるだけで、約2週間、それぞれの生活が足踏みをはじめ、何となく、生きた心地がしない日々が続くのです。これが陽性だった日には、さらにとんでもない気持ちに、とんでもない状況になっていたことでしょう。今、ご家族が、ご自身が、近しい人がコロナに感染し苦しんでいる方々を、心からお見舞い申し上げます。まじで大変ですよね・・・。
特にデルタ株が蔓延して以降は、感染経路不明どころか、感染対策を徹底的に講じていても罹患してしまった、なんてニュースが飛び交い、マスクもワクチンもすり抜けるブレイクスルー感染なんて言葉も広まり始めました。そんな世界で、「ワクチン打ったからもし感染しても重症化しないし死なないから平気だよ稽古しよう」とは言えないし、「ワクチン打ってらっしゃったらもし感染しても重症化しないし死なないと思うので平気ですよ観にいらしてください、ただし自己責任」なんて、到底言えない僕たちでした。
演劇を創るためにはどうしても、稽古場でたくさんの人と会い、密度の高いコミュニケーションを取ります。劇場に入り、さらに純度の高いコミュニケーションを取ります。そしてお客様をお招きし、距離を保つとはいえ空気感染を防ぎようのない「上演」という行為を行います。この過程のどこかで一人でも陽性者が発生したら、我々の手も責任も届かない範囲で、誰かの生活が止まってしまう。その恐怖から逃れられなくなっていました。心は無頼を気取って生きてきたつもりですが、思った以上に脆かったようです。いやそもそも無頼を気取っている時点でつまりは弱いってことでしたね。
そんな経緯で、9月末、公演の延期を決断いたしました。
10月に入り、今まさに目減りしている感染者数を横目で見ながら、「あれ?この感じなら公演やれたんじゃね?」と思うのかもしれません。あるいは11月末に「やっぱり延期にしといてよかったね」と思うかもしれません。
それでも今回は、近々現れると噂される治療薬と、ノーマスクでもインフルエンザ並みに感染率&致死率が下がることに期待して、延期させてください。ただでさえ滞っているみんなの生活が、赤字が確定している公演を打つことでより滞り、劇団としての活動自体が完全に止まってしまうことを回避させていただきたいという、経済的な意味でもお恥ずかしい決断となりました。「やりたいことやってんだから赤字になってもいいじゃん」なんてご意見には反吐が出るし説明も面倒なので省きますが、やりたいことやって座組やお客さんに感染者出してしかも赤字、なんて最悪じゃないですか。誰も得しない。
わだかまる気持ちがほんの少しでも心に湧き上がると、それがどれだけ小さな気泡でも、思考の水面を揺らし始めます。絵具に黒を一滴混ぜただけで、どんな色でもくすんでしまうように。
この感覚を、去年の末、僕たちは一度味わいました。できれば二度と味わいたくないのです。
何卒ご了承いただけますと幸いです。
この決断を受け入れてくれた劇団員のみんなと、理解してくれた客演の方々、スタッフの方々、劇場および稽古場運営の方々に、心からお詫びと感謝を申し上げます。
なお、延期となった次回公演は、2022年度以降にて検討中です。詳細が決まり次第ご報告いたします。
また、各劇団員は、それぞれ外部の企画等で活動することはございますので、公演情報は引き続きこのサイトにて紹介してまいります。
今後とも、箱庭円舞曲をどうぞよろしくお願いいたします。
箱庭円舞曲 代表 古川貴義